■10月29日更新
サイゾー
2003.
9月号

インダス文明、エジプト文明、メソポタミア文明、中国文明…。雄大なる地球上の大地に築き上げられた文明が、今なお世界各地に残されている。そしてここ黄金の国・ジパングにも、我々を魅了してやまない文明があった。そう。日本を発祥の地とする、邦衛文明がそれである。現代の日本は、高度な印刷技術と共に多くの出版物が発行されている。このコンテンツでは、山積みされた書物の中から貴重な邦衛資料を発掘し、再現する。
 
     
 

女房に将棋で勝つ夢を見るなんて、
ちっこい男だよぉ


「映画『福耳』では幽霊、つまり死人の役を演じられたわけですが、ご自分では、死というものをどのように感じていますか?」
 じっとこちらの目を見たまま、身じろぎひとつしない。後日、取材テープを聞き返してみたら、21秒間の沈黙。
おれは、もう…風来坊だから…そんときはそんときだ、と。…死んだら、あのー、亡くなりゃ…それまで生かしてくれで、ありがとう。それだけです
 怒っているのではなく、言葉を探していたのであった。質問を受けると、まず、じっとこちらの目を見つめ、ねばっこく言葉をまさぐる。
 もし、「田中邦衛史上で最高の役は?」と聞かれたら、躊躇なく『仁義なき戦い』の槙原政吉役と答える。五郎さん(『北の国から』)ではない。悪いけど。槙原は、自分じゃ何もできないクセに大物の陰で小ズルく立ち回る(といって頭が切れるというわけではない)、どうしようもないチンピラヤクザ。クライマックス、その槙原が、仲間(松方弘樹)の隠れ家を密告する。警察の用意した地図に「ココだよぉ、ココ」と赤いマジックで印をつけてみせる。あのシーンを観たときは、怒りで体が震えた。だけど、そのどうしようもない小者ぷりに共感もした。その槙原役について、聞いてみた。
…覚えてねぇなぁ
 ズッコケた。
観てねぇんだよなぁ。おれぇ、あのぉ…ああいう迫力ある、ああいうのは、オレには合わないな。…辰ちゃん(梅宮辰夫)とかなんとかは、もう、すっごく迫力があって…川谷(拓三)さんなんかもすっごい迫力で、オレは…かなわねえなって。それで…観もしなかった。もう、ぜんぜん覚えてないっす。オレは、大きくて存在感があるってのが似合わない。ちぃせえ男は似合う
「ちぃせえ男は似合う」、たしかにそうだ。しかし、槙原役は「似合わない」と言う。ということは、邦衛さんは、槙原という天下の小悪党を、梅宮演じる若頭と同様の大物として演じでいた…。チンピラ槇原は、それを演じた邦衛さんそのものだったのかも。小物のクセに大物ぷる槙原改善と、「ちぃせえ男」なのに必死に大物を演じようとした田中邦衛。
 最近の邦衛さんは、いつも“いい人”役だ。今回の『福耳』もそう。死んでしまった藤原富士郎(田中邦衛)は、自分の恋を成就させるため主人公の里中(宮藤官九郎)に取り憑く。しかし、徐々に里中と亡くした自分の息子とをオーバーラップさせ、彼を親身になって助けようとする。正直、少し物足りない。
 しかし、邦衛さんの見せ場は、映画の終わり近くにやってきた。富士郎に取り憑かれた里中が、もう離れてくれと言い始める。富士郎は、里中の決心が固いと知るや、口をとんがらして、ゆっくりと卓球台の前に立つ。と、突然その上に転がっていたいくつかのピンポン球を、すねた子どものように、パッと手で払った。これぞ“田中邦衛”だ。それまで、里中に対して、人生の先輩、大人(もう死んでるけど)として振る舞っていた富士郎が垣間見せる、その「ちぃせえ男」ぷり。このシーン
についても質問してみたが、「ごめんなさい。覚えてねえなぁ
 それにしても、邦衛さんはよく忘れる。むかし出演した映画どころか、公開前の映画まですでに忘れでいるらしい。以前、弓を極めて弓を忘れる男の物語を読んだことがある。邦衝さんはそのうち演技を忘れるのかも。
 最後にひとつ聞いてみた。
「昨晩見た夢を覚えていますか?」
あんまう覚えてねぇなあ、夢なんか見ねぇから。…そういえば、女房と…いつもヒマなとき将棋するけど、いつも負けて、…勝ちでえな、そんな夢しか見ねえ。…ちっこい男だよぉ


 
   
 
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