『週刊文春』2001.5.31
  阿川佐和子のこの人に会いたい
 
       
 

田中 阿川さんのこの対談ページ、たまに拝見さしていただいてるんですけど、……心から俺には似合わねえと恐縮して、……プレッシャーです。
阿川 こちらこそ恐縮です。三百本を超える映画に出てらっしゃる名優の田中さんに出ていただいて。
田中 いや、俺、ホント不器用だから。取柄がないのよ。背中小っちゃくて、奇妙な男、こんな影の薄い芸人は少ないばい。九州弁になっちゃつたよ(笑)。
阿川 何言っとっとっと。
田中 アハハハハ。そんな九州弁なかばい(笑)。
阿川 田中さんが大工の棟梁役をやってらっしやる三谷幸喜監督の『みんなのいえ』(六月九日公開)、拝見しました。
田中 俺、まだ見てないんですよ。映画館で、普通の人の後ろから見るのが好きだから。
阿川 ココリコの田中直樹さんと元フジテレビ・アナウンサーの八木亜希子さんの夫婦がお洒落なマイホームを夢見て、新進気鋭のインテリア・デザイナーの唐沢寿明さんに設計を依頼する。施工を八木さんの父親で大工の田中さんに頼んだら、唐沢さんと田中さんがぶつかって大変なことになっちゃうというお話で、おかしかったです。
田中 俺、最初はこれがコメディだとはまったく思ってなかったんです。
阿川 えっ、三谷さんは掲影前に何もおっしゃらなかったんですか。
田中 最初に「田中さんの『北の国から』のイメージを崩して、『若大将』に戻したい」とおっしゃったけど、俺、何のことかよく分かんなかったんですね。
阿川 ほお。
田中 終わってから、三谷さんの監督第一作日の『ラヂオの時間』見て、「ああ、見た人を笑わせるほどの可笑しみを持ちながら、賢明に棟梁をやっている姿を描きたかったんだな」ということがやっと分かった。ちと遅かったね〜ェ(笑)。
阿川 そんなことないよ〜ォ.今度は口調が、『北の国から』の五郎さんになってるんでないかぁい?(笑)
田中 ハハハハハ。
阿川 『みんなのいえ』は、三谷さんご夫妻が家を新築しようとしたときの経験がもとになっているそうですね。
田中 それも後から聞きました。奥様(女優の小林聡美さん)のお父様が大工の棟梁さんだって。
阿川 棟梁の役をというお話があったときは、どうお感じになりましたか。
田中 僕はいつもフラフラしてる風来坊だから、台本読んで「こんな頑固一徹で、実在感のある大工の棟梁は、およそ僕はふさわしくないからダメだ」と言ったんです。俺はほんとに実在感ないから。そしたら、「田中さんにやっていただくんだから多少は直しますから」というのでお受けして。
阿川 でも、適役でしたよ。
田中 いや、とんでもない。ただ僕は職人さん、もの言わぬ生活のプロたちが大好きなんで、こういう役で大工の棟梁の方にいろんなことを教わるのは素晴らしい体験になりますね。
阿川 あ、実際に教わるんですか。
田中 そう。俺、職人さんたちが大好きだから、畳屋さんとか豆腐屋さんがある商店街を歩くのが好きなんです。仕事の前に時間があるとよく歩く。今日も歩いて釆ましたけど。
阿川 えっ、どの辺を?
田中 青物横丁から旧品川通り沿いをずっと。俺、あの通りは大好きですね。で、ああいう商店術には必ず銭湯がある。
阿川 銘湯に入られるんですか。
田中 入りはしないです。でも、仕事でどっか行ったときは、ホテルのお風呂なんか入らないで、近所の銭湯探して入ります。京都でも。銭湯に来る入ってあまり喋らないんですけど、この開、久し振りに京都の銭湯に行ったら、そばに来て小っちゃい声で「一年振りちゃうか。みんなで、最近、来いひんなって話しとったんや」って言うんですよ。
阿川 いいですねえ。
田中 そういう匂い好きですね。それに似てるのは映画のスタッフです。
阿川 ああ、照明さんとか録音さんとか、みんな職人ですもんね。
田中 だから、映画に入るとついついハシヤいじゃって、スタッフと喋りまく
ったり、悪戯したりされたり。
阿川 『みんなのいえ』はいつ頃、撮影なさったんですか。
田中 撮影に入る前に、去年の十二月から一カ月近くリハーサルしたんです。
こんなにリハーサルしたのは黒澤(明)組以来ですね。
阿川 へえ。
田中 全部ワンシーン、ワンカットなのも、黒澤組以来ですよ。黒澤さんはツーキャメとかスリーキャメで撮っていらしたけ、三谷さんはワンキャメでワンシーン、ワンカット。その独特のリズムと手法で、ワンシーンに人物が濃縮して絡まって、それぞれの人物が見事に活きてますよね。
阿川 『ラヂオの時間』もそうでしたね。俳優さんたちはいかがでしたか。
田中 唐沢も田中も八木さんも、すごく作品に集中してましたね。俺だけだけな、ハシヤいで、スタッフと遊びほうけて楽しんでたのは。
阿川 田中直樹さんの気弱ぶりもおかしかった。何でも丸く収めようと、右往左往して。
田中 直樹君はいいねえ。とってもいい。普段はすごいシャイなんだけど。
阿川 八木さんは映画初出演だそうですけど、とてもそうは思えない! アナウンサーだったはずなのに。
田中 僕、アナウンサーだって知らなかったんでピックリしました。笑顔が可愛くて、役にぴったしだと思います。
阿川 チヤキチヤキ娘がピックリで。
田中 香取(慎吾)君も、普段は静かですけども、すごいナイーブさでデリケートな芝居して素晴らしいですね。

   
     
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