田中邦衛さんは忘れ物の天才。
だから財布も持たせてもらえなくて…
田中邦衛さんは俳優座養成所の大先輩。後年、「北の国から」で、二十数年ご一緒し、先輩の中では一番仲良くしてもらってるし、尊敬する一人だ。
すごい照れ屋でね。主役を張る人でありながら、できるかぎり目立つところには居たくない、と思ってしまう、主役らしくない主役だ。ところが仕事に入った時の集中力たるやすごいし、共演者やスタッフを知らず知らずのうちに自分の手の中に入れてしまう。田中邦衛のためなら一肌も二肌も脱ぐ。みんなにそう思わせる力がある。人間的魅力としか言いようがない。
だけどまあ、普段はその“主役らしからぬ”人。もう、冗談ばかり言って、頼りにならなくて、心配させるし……。
忘れ物の天才だ。台本をワンカットごとになくす。劇中でかぶっていた農協の帽子もそう。「これが最後だからね」と念押しされても、どっかに置き忘れちゃう。美術さんは内証で5つ、6つ、替えを持っていたよ。
着ていた衣装にも必ず忘れ物がある。衣装さんが「昨日の忘れ物」って書いて置いてあったよ。
そんなだから奥さんに財布も持たせてもらえないようだ。なんでも、朝、1万円もらいポケットに入れて出てくるらしいけど、それさえ忘れちゃうことがあるんだから。
ある日、「今日はオレが昼飯をおごる」と張り切ってみんなに声をかけ引き連れて行って、さあ、お勘定のところで、「あっ、金がねえや」って。真っ赤な顔し、例のように口をとがらせ「参ったぁ」と。
たばこなんか10個ぐらい持ってくるんだよ。朝、奥さんがいろんなところに入れてあげてるんだ。「たばこ、たばこ」って探すとホント、あちこちから出てくる。面白いよぉ。
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