■10月30日更新
キネマ旬報
2003.
9月上旬号

インダス文明、エジプト文明、メソポタミア文明、中国文明…。雄大なる地球上の大地に築き上げられた文明が、今なお世界各地に残されている。そしてここ黄金の国・ジパングにも、我々を魅了してやまない文明があった。そう。日本を発祥の地とする、邦衛文明がそれである。現代の日本は、高度な印刷技術と共に多くの出版物が発行されている。このコンテンツでは、山積みされた書物の中から貴重な邦衛資料を発掘し、再現する。
 
     
 



芸人としての役と自分の接点を探すことが
大切なことなんです


 今年は「黄泉がえり」、今秋公開の「精霊流し」と映画出演が続いている田中邦衛。中でも瀧川治水監督の「福耳」は、宮藤官九郎とのダブル主演作。これは司葉子扮するヒロイン・神崎千鳥に思いを残して死んだ田中邦衛の藤原富士郎の霊が、宮藤官九郎演じる里中高志に取りつき、千鳥への思いを遂げようとするもの。同じ体を共有する男二人の、親子にも似た友情がコミカルに描かれる。
最初に脚本をもらって読んでみたら面白かったし、宮藤君に非常に興味があったんですよ。彼は映画「GO」で日本アカデミー賞の最優秀脚本賞を獲ったでしょう。実は宮藤君が舞台をやっているとは全然知らなかったんですけれど、どういう人なのかなと。楽しそうなのでこの役をお受けしたんですけれど、大変だったですね。高志が鏡を見ると、幽霊の僕が映っている。その時僕と宮藤君が、同じ動きをしなくてはいけない。それもピチッと合わなくてはダメなんです。ですが右足から動かさなきゃいけない時に、『ヨーイ、ハイ』で僕が左足から動かしてしまって、宮藤君が合わせてくれたり。彼にはいろいろ迷惑をかけました。それでも一緒にやっていくうちに、心の部分で二人の関係がステップアップしていった感じがします。宮藤君は、吉岡秀隆君や香取慎吾君もそうなんですが、自分の素材をアピールしない自然な演技をするんです
 藤原は生前、パソコンで株の取引をしているような理系肌の男。こういうタイプの役は結構演じるのが難しいという。
パソコンなんて、まったくできないですから。理科系の役はあんまりやったことがないんです。前に根岸吉太郎監督の『ウホッホ探検隊』で、東大を出てマサチユーセッツに留学して、今は筑波で研究している男をやったんですよ。この時は、半年ぐらい筑波に通って理科系の人ってどんな感じかを観察して。電車に乗っても街を歩いている人を見ても『あの人、理科系かな?』と観たりしてね。理科系の人って、歩き方が静かなんですよ。あの役の雰囲気が、今回の藤原に少し近いかもしれないですね
 インタビュー中に自分のことを『芸人』と言った田中邦衛にとって、役と自分の接点を探す作業はどんな場合でも大切なのだとか。
今回はあんまり準備期間がなかったんですけれど、藤原はダンスが得意という設定があるんです。それで新大塚にあるダンス・スクールに行って、ステップの練習はやりました。これまでダンスなんか、やったことないですから。細かくチェックはしてもらったんですけれど、およそダンスは似合わないですね
 謙遜をしているが、回想シーンに登場する千鳥とのダンス・シーンはなかなか堂に入っている。その藤原にとって憧れの女性・千鳥を演じた司葉子は、田中邦衛が「若大将」シリーズをはじめとする一連の東宝映画に出演していた時、看板女優の一人だった。
でも司さんとは、これまで一度もちゃんと共演したことがなかったんです。当時の司さんはスターで、僕は岡本喜八組とかでギャングの隅っこにいましたから。東宝の食堂でも、遠くの方にいる司さんをお見かけしていただけでした。ですからこの映画でご一緒した時に、最初は緊張しましたよ。でも本当にもの静かで優しい方だと思いました。とても演じやすかったですね
 始めは自分の体に勝手に入り込んできた藤原に反発していた高志は、やがて彼の言う人生訓や考え方に影響されていく。その二人が別れるクライマックスは、10月の寒い朝に浅草で撮影された。
本当に、寒かったですよ。着ているのも夏服でしたし。あそこの場面は川べりに立つ高志と、水面に映っている僕を別撮りしたんです。高志に『ありがとう』って言うセリフが印象的に残っていますね。この映画は僕と宮藤君の動きを合わせることでも、照明やキャメラの方が大変だったと思うんです。でも現場にいるとみんなの熱を感じる。それが映画の現場の好きなところですね。共演者の方は
勿論ですけれども、そういうスタッフや監督と出会えることは幸せですよ。『北の国から』が終わって、『黄泉がえり』『福耳』『精霊流し』と立て続けに3本映画をやりましたけれど、ああいう熟を持ったスタッフと映画を一緒にやれる。それが嬉しいんですよ

 
   
 
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